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【自分用のメモ】東ドイツ映画『Berlin Ecke Schönhauser』

 東ドイツで作られた映画 『Berlin Ecke Schönhauser』 (1957)をDVDで観ました。ウワサどおり、いろいろ考えさせてくれる作品でした。

Berlin Ecke Schönhauser
監督:Gerhard Klein (ゲアハルト・クライン)
脚本;Wolfgang Kohlhaase (ヴォルフガング・コールハーゼ)
出演:
Ekkehard Schall (エッケハート・シャル)
Ilse Pagé (イルゼ・パージ)
Harry Engel (ハリー・エンゲル)
Ernst-Georg Schwill (エルンスト=ゲオルク・シュヴィル)

<簡単なあらすじ>
 舞台は壁が建設される前の東ベルリン。東西両ドイツの建国から約7年が過ぎ、両国の溝は深まるばかり。ディーター、コーレ、カールハインツの3人は、いつもシェーンハウザー•アレーという通りの高架下でたむろしている不良グループ。西ドイツの1マルクを賭けてガス灯を割るなど、警察の世話になることもしばしばでした。ディーターは両親を戦争で失い、身内は警察官の兄だけ。コーレは母の再婚相手から常に暴力を受けていまいした。カールハインツは裕福な家庭に生まれたものの、東での生活に満足できず、西へ行って一山当てようともくろんでいます。そんなカールハインツは、ディーターをそそのかして盗みを働こうとするのでした。しかしアンゲラという少女を好きになったディーターは、悪への誘いを断るのでした。
 結局カールハインツは1人で西ベルリンへ行き、悪い大人にそそのかされて人を殺してしまいます。ディーターとコーレは、東へ逃げ帰ってきたカールハインツを殺してしまったと思いこみ、追いつめられて西ベルリンへ逃亡するのでした。そこでコーレは不慮の死を遂げます。一度は西へ逃げたディーターでしたが、残してきたアンゲラが恋しく、再び東へ戻ってきます。アンゲラはディーターの子を宿していました…

【自分用のメモ】東ドイツ映画『Berlin Ecke Schönhauser』_e0141754_2152522.jpg


…とまあ、あらすじを読むと安っぽい三文ドラマですな。はい、ストーリー自体はどってことないのです。面白いのは、この映画が撮られた時代と背景。ドイツが敗戦とともに戦勝4か国により分割統治されたのは有名な話。ベルリンも同様です。ソ連占領地区では、映画が共産化のための重要な手段と位置付けられ、早くから映画製作の基盤が作られました。終戦の翌年には、もうニュース映画や劇映画が公開されています。早っ  ソ連および社会主義の賛美のほか、ナチや帝国主義&資本主義の否定が映画の主要テーマ。

 …ところが1953年にソ連のスターリンが死亡すると、東ドイツも状況ががらっと変わります。文化政策への締め付けも(一時的ですが)緩くなるのでした。そんな時期だからこそ、この映画の製作が可能だったと思われます。だってさー、主人公は「理想的な社会主義ボーイ」からかけ離れた不良少年たち。彼らは西側、特にアメリカの文化に憧れています。高架下でダンスを踊り(何のダンスかよく分かりませんが、アメリカっぽい。たぶんブギウギ)、悪さばかりしています。彼らは東の現状 ― 復興の遅れ、経済の停滞、モノ不足など ― に不満を抱いています。東ドイツの青少年組織「FDJ」に入れと勧められても、むげに断っています。確かに、西側に憧れる若者からすると、FDJはダサく見えるのでしょう。本編の中で主人公の口から出る言葉が目を引きます。

Warum kann ich nicht leben, wie ich will. Warum habt ihr lauter fertige Vorschriften? Wenn ich an der Ecke stehe, bin ich halbstark, wenn ich das Hemd ueber der Hose trage, bin ich politisch falsch, und wenn ich Buggy (←Boogie のこと?)tanze, bin ich amerikanisch.

「なんで好きなように生きちゃいけないんだ? どうしてお仕着せの規則ばっかりなんだ?街角にタムロしていると不良と呼ばれる。シャツをズボンから出していると、政治的に間違っている(反社会主義という意味でしょうね)と言われる。ブギウギを踊っていると、アメリカかぶれと呼ばれる。」

 こういったセリフを映画の主人公にしゃべらせること自体、当時の東ドイツからすると「奇跡的」な気がします…。これは当時の若者の気持ちを代弁したものなんでしょうね。社会主義的に正しい若者は、シャツをズボンに「イン」しないといけない。労働者たるもの、街角でタムロするなんてとんでもない。ブギウギなんてアメリカ的なダンス、ありえなーーい! …そうお上から言われれば言われるほど、抵抗したくなるのが若者の常。これを脚本に盛り込んだ脚本家は偉い!

 いくらスターリンの死後で締め付けが緩んだといっても、やっぱり東ドイツは東ドイツ。とーぜん、企画の段階で物議をかもしたそうです。しかも主人公が恋する少女は西ドイツの女優。ギャラをValuta (東ドイツ用語で、外貨のこと)で払わなきゃいけないのもネックだったらしい。ところがちゃんと許可が下りるまえに、見切り発車で撮影が始まった模様。完成してからもイロイロあったようですが、この映画を試写で見たハンス・モドロウ(統一前後に旧東独の首相となった人)が当時、賞賛したんだとか。その後、この映画は無事公開にこぎつけ、観客から絶賛されたんだそうです。

 主人公は最後に恋人が待つ東ベルリンへと戻っていきます。この結末にはイデオロギー的な"あざとさ”も政治臭もなく、純粋に「自分が生まれ育った町」「自分が愛する人が待つところ」へ戻るというもの。ちょっとチャチいところもあるけれど、観てよかったなぁと思える作品でした。



by Alichen6 | 2015-01-27 21:50 | ドイツ映画

日本にいながらドイツする♪  ドイツ・ドイツ語・ドイツ映画を愛してやまない下っ端字幕ほにゃく犬「ありちゅん」が字幕ほにゃく見習い眉毛犬「Milka」と一緒に書く日記


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