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『戦時下日本のドイツ人』

『戦時下日本のドイツ人』_e0141754_17273760.gif いつもお邪魔しているAnnaさんのブログ(コチラ)でこの本のことを知り、「読みたい!」と思っておりました。とっても面白かったです。

『戦時下 日本のドイツ人』集英社文庫
上田浩二、荒井訓

集英社のサイトより引用:
『「非国民」「鬼畜米英」に代表される排除と憎悪の戦時下日本で、「ことなった体験」をした人たちがいる。偶然にも当時の日本に暮らすことになったドイツ人たちだ。貿易商、教師、留学生や兵士として、遠い日本で体験した彼らの日常生活は、ほとんど記録に残っていない。どのように暮らしていたのだろう。日本の戦争、戦時下の生活をどう見ていたのだろう。大物スパイ・ゾルゲの素顔やヒトラー・ユーゲントの来日で沸く軽井沢など、意外なエピソードを豊富に紹介しながら、戦争という歴史的大事件とは切り離せない大小の日常的事件を、24人のドイツ人が、おおらかに、そして真摯に語る。本書は、「記憶の風化」という時間との戦いのなかで集めた、歴史的に貴重な極限状況の証言集である。』(以上、引用終わり)

 上田先生は以前、NHKのドイツ語講座で講師をしておられたので、ご存じの方も多いのでは。実はワタシ、ゲーテで上田先生のコースに1年間通ったこともあり、よけいに「懐かしい!」と思いながら読みました。何らかの事情で来日し、第二次大戦中も日本に滞在したドイツ人に対して丁寧な聞き取り調査を行った結果をまとめたものだそうです。ケルン大学日本語学科の教授や学生の協力もあり、一大プロジェクトとなった模様。ただし、日本の出版事情を考慮して結果はコンパクトにまとめたそうです。

 当時、日本にいたドイツ人はナチや戦争を嫌って逃れてきた者も多かったそうです。また、日本にやってきたドイツ人の中には、蘭領インド(今のインドネシア)から逃れてきた蘭印婦人やその子供たちもいたとのこと。彼女たちは在日ドイツ大使館に保護されたんだそうです(本国のドイツがオランダに侵攻したため、蘭領インドにいたドイツ人男性は収容所に入れられてしまったとのこと。先日ご紹介したローマイヤーの伝記では、「バタビア婦人」と呼ばれていました)。

 祖国ドイツから遠く離れた極東にあっても、彼らはナチの影響から免れることはなかった模様。1933年には日本にもナチの支部ができたそうです。また、ゲシュタポのヨーゼフ・マイジンガー大佐がドイツ大使館に赴任してからは、日本在住のドイツ人も気を抜けなかったようです。マイジンガーは「ワルシャワの殺人鬼」の異名を持つ人物。ワルシャワのゲットーでユダヤ人が蜂起した際、極めて非人道的な行動を取ったとのこと。日本では特高と協力して在日ドイツ人の言動に目を光らせていたそうで、ローマイヤーの伝記にもそのことが出てきました。マイジンガーは戦後、アメリカ軍に逮捕されてワルシャワで裁判にかけられ、絞首刑に処せられています。

 非常に面白いと思いましたのが、有名なゾルゲ事件に対するドイツ人たちの証言。ゾルゲは日本のドイツ人社会でも有名だったそうです。この事件はよく分かっていない部分が多いそうで、彼に対する見方も人によって分かれるようです。

 その他、ドイツの降伏を日本のドイツ人たちはどう受け止めたか、さらに日本の降伏のニュースをどう知ったか、彼らはどうやって祖国に送還されたかなど、非常に興味深いエピソードが紹介されていました。新書ということでコンパクトにまとめられてはいますが、この本を読みますと当時のドイツ人の様子が少しずつ明らかになってくるような気がします。過去の歴史的事実が風化し、忘れ去られてしまう前に、こうした貴重な証言がまとめられたのは非常に意義のあることだと思いました。
by Alichen6 | 2009-11-17 21:49 | ドイツのこと

日本にいながらドイツする♪  ドイツ・ドイツ語・ドイツ映画を愛してやまない下っ端字幕ほにゃく犬「ありちゅん」が字幕ほにゃく見習い眉毛犬「Milka」と一緒に書く日記


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