『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』
2013年 04月 24日
で、届くやいなや、すごい勢いで読んでしまいました。すんごく面白かった!著者の太田直子さんは字幕界の大御所のおひとり。数年前に出た「字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ」もとっても面白かったのですが、この本も同じくらい、いや上回るくらい楽しい。字幕翻訳に関する基本的なことから、業界をとりまく情勢の変化、日本語の問題、字幕翻訳家になった経緯などが、冴えた筆致で時に辛辣に、時に面白おかしく語られています。そして何よりも最初から最後まで「映画愛」が貫かれているのです。ご本人はとても謙虚な姿勢で書いておられるのですが、この方の字幕がすばらしいワケが分かったような気がしました。
私のような下っ端翻訳者と太田さんを同列に語るのはあまりにもおこがましいのですが、「そう、それなのよ!!」とか「その気持ち、すっげー分かるっっ」と叫びながら読書いたしました。こんなワタシと一緒にいしたら、ホントに、ホント~~に申し訳ないのですが、字幕の世界に入った経緯(というかルート)が実は同じ…!さらに、初号試写の会場で「うっ」といううめき声が上がる…というくだりでは、「わ、私だけじゃないのね…(ひそかに安堵)」と思いましたです。あはは。同業者の方々、読むとスッキリしますよ~~。一方で、「大御所の方々との間には、やはり大きな開きがあるなぁ… ガックシ」と痛感・落胆したのも事実。あーあ。
字幕の世界に足を踏み入れて、ワタシはまだ15年ほど。この業界には30年以上という方も大勢いるので、実年齢は老けているものの、まだまだクチバシの黄色い(黄ばんだ?)ヒヨッコです。たったの15年ですが、この間にも字幕翻訳を取り巻く環境は大きく変化しました。始めた当時はDVDもなかったし、まだ「パチ打ち」という字幕を入れる手法も残っていました。そして業界を大きく変えることになった字幕制作ソフトもまだなかった。私が師事した先生は、手書き原稿を納品していました。「効率化」の波が押し寄せ、当時より全体的に字幕翻訳の水準が下がったかもしれない。だけど低予算での日本語版制作が可能となったお陰で日の目を見ることになったドイツ映画も多い。(劇場で公開されることのない、DVDストレートが大半ですが)「価格破壊」「愛のない安易なモノづくり」には絶対に反対だけど、ドイツ映画が日本にたくさん入ってくるのは大歓迎。それを考えるとフクザツです。
とにかく、楽しく読めていろいろ考えさせてくれる本でした。オススメです!